5一対多の対応の技術-4共同体
複数の人間の同居
どのような形態であれ、複数の人間が集まれば共同体としての特徴が出てきます。兄弟でも親戚でも園の友達でも、集まれば集まるだけ複雑な人間関係や力関係が働きます。そしてそれが園にいる時間だけだとしても、食事時間、遊びの時間、活動の時間などを含めて、共同体としての生活形態が浮かび上がります。
判りやすく言うと、木を見て森を見ずといいますが、一人一人を見ているだけでは判らない共同体独自の特徴があるということです。
子どもたちの集まりに加えて、大人が一人いるだけで、どのように工夫を凝らしても大人が中心人物にならざるを得ません。そしてその形態は一人一人の子どもと大人の中央集中型のネットワークから始まって、徐々に子どもたちとの相互の意思疎通ができるようになり蜘蛛の巣型へと発展して行きます。
共同体の最低限のルール
人が集まるところには、それ相応のルールがあります。最初はルール無用、もしくは信頼関係だけで成り立っていた人間関係も人が増えるに連れて個人の性善説に頼っては運営できなくなってきます。これは社会でも国でも、どんな共同体でも同じことです。
本来なら子どもたち自身でルールを決める形態が望ましいのですが、まだ集団生活に上手く慣れていない子どもたちの代わりに、中の大人がルールを決めることになります。
他人を叩いてはダメ、他の人の物をとってはダメという一般社会でも通用するルールから、食事中は席を立ってはダメ、お話を聞く時は黙って聞く事というような、その共同体でだけ通用するローカルルールにわかれます。
大人はルールを既定する時、それがグローバルなルールなのかローカルなルールなのかを意識しながら決めなければなりません。
ローカルルールは別の共同体(家庭や他の友達関係など)では違うルールが採用されているかもしれないからです。そこをきちんと説明して、個人個人にきちんと守るように説明します。
共同体の中の共同体
大人数が集まると、その中でもそれぞれにグループ分けがなされます。クラス分けや班分け等の公的なグループや、仲良しグループ等の私的なグループまで様々ですが、時にはそれが二重三重に重なることもあります。
その時に、内部のルールや外部とのやり取りの仕方が問題になります。内部のルールは大人が作ることもありますが、逆に子どもたちが自分達で考えたルールがグループを形作ることもあります。人形遊びが好きな子どもの集まり、かくれんぼのルールに則って遊べるグループ等です。
また外部とのやり取りが固定されていくこともあります。そのグループから先生に話しや報告に来る子どもが決まってしまったり、先生に言われてグループの中に伝達する役割の子どもが固定化されてしまったりです。そのような分化はある程度は社会性の発達として歓迎できますが、強制的な嫌々ながらの役割になってしまわないように大人の側で注意して観察しましょう、
共同体の目的
どんな共同体も集まること以外に様々な目的があります。家族であれば、共に仲良く助け合って暮らすことが目的ですが、園の場合は子ども自身の意思で選んだわけではない共同体です。では園の子どもたちが形作る共同体の目的は何でしょうか。
これは、園の経営、運営のポリシーにも関わってきます。そして保護者たちの要望にも左右されますが、おおむね子どもたちの健全な発達、成長のため。そして子どもたちの安全で健康的な保育という目的に二分されるでしょう。
逆にこの二つは目先だけを見れば矛盾することなのです。保育と保護を優先させれば何でも先生がやってあげることになり発達を妨げます。教育と発達を優先させれば、自分で出来るようになることに主眼が置かれ保護や保育は後回しになります。
もちろん、この二つは幼稚園でも保育園でもきちんとしたバランスと計画の上で両立しなければなりません。現場の先生達の綿密な計画と臨機応変な対応が求められる部分になります。
自我の確立の困難
共同体の中で過ごしていくうちに子どもは自分のことをどのように捉えているでしょうか。○○幼稚園の自分。○○組の自分。○○君たちと仲良しグループの自分。そしてもちろん○○家の自分。これだけ多くの自分がいることを最初はなかなか子どもの心は受け入れられません。
その多くの自分が同じ自分の違う側面であるということを受け入れるまで、子どもは場面ごとに意識も行動も感情も切り替わり、中々同一性を保てません。ですが少しずつ自分を含む沢山のグループの内包関係や継承関係を理解して、自我同一性を確保していきます。
これは個人差が大きく、そして深い意味では思春期までも持ち越す問題です。子どもたちの疑問や不思議の多くは、この部分から来ることも多いため、解決の手助けは出来なくとも、子どもがこの複数の自分に対して疑問を持っていることは忘れないでください。
一緒の時間を過ごす
子どもたちは一緒の共同体で過ごすうちに、沢山の情報を相手から得ます。そして自分のことを話すうちに自分についての疑問点が浮き彫りになり、他人へ説明する技術も向上します。そうして他人と共に一緒に過ごすことで他の子どもにも家族がいること、他の子どもにも別の家があること等の理解が深まっていきます。
今度は、その情報は自分についての疑問になって返ってきます。○○君の家は新しいおもちゃを買ってもらったのに、何でうちでは買ってもらえないのか。なんでうちにはお姉さんがいるのに、よそは居ないことがあるのか。うちのママと友達のママは、同じ「ママ」なのに何で違う人なのか。
子どもたちの会話は疑問に満ち溢れ、一日一日の付き合いが子どもの世界を大きく広げます。
仲間意識の発生
こうして一緒に遊んだり、同じ時間を過ごしていくうちに、グループの中に仲間意識ができてきます。自分たちと同じグループ、同じクラス、同じ園、同じ家族等などです。
これは自分が所属している共同体の運営を支える基本的な感情です。オリンピックで自分の国を応援するのも、自分が住んでいる自治体に税金を支払うのも、元々は同じ感情からきています。
所属意識、仲間意識というものはこれからの人生において、子どもたち自身を守ってくれるものでもあり、子どもたち自身の活動の足場ともなる大事なことなのです。
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