1基本の中の基本-5感情

最初は無からはじまる

人間の心は常に揺れ動いています。冷静沈着な大人でも自分の感情はままならないものです。まして子どものうちは自分の中から湧いてくる喜怒哀楽の感情に激しく揺さぶられ、行動も意識も知性も全てが感情に引きずられてしまいます。

こうした感情は勝手に何処からか降って湧いてくるようなものではありません。きちんと理由があって感情が生まれるのです。その因子は不快さと、その強さです。「快」ではないのかとお思いの方もいるでしょうが、衣食住と何不自由なく暮らす南方の島に暮らす人たちには感情の要素が乏しいことがわかっています。つまり「快」だけでは感情に揺れが起こらず、喜怒哀楽は激しくならないのです。

満足している状態に、不快な要素が入り込む。そこで初めて感情は揺さぶられ喜怒哀楽の波ができるのです。

喜び

人間が一度不快な思いをします。それが一時的な事で、すぐに取り除かれるか、自分で取り除くことができれば人間は喜びを感じます。例えば乳児がオシメを代えてもらった時や、空腹時にミルクをもらった時などに喜びの感情が生まれるのです。

喜びは人間にとって、とても心地よいものです。人間はこの喜びの瞬間を迎えるために生きているといってもよいかもしれません。生きて行く上で辛い事、悲しい事等はその先に喜びがあると思えるから耐えられるのです。この喜びの瞬間を子どもに対しては多少オーバーでも強調してあげてください。喜びを主なエネルギーとして人間は日々を過ごしていくのです。

楽しい

不快な思いから快適な状態になり、喜びが長く続けば楽しい感情が生まれます。これは一瞬の喜びとは違い、ある程度の時間的な長さをもった感情です。喜びは急に訪れますが、楽しみは今は楽しい時だ、と認識してその時間を過ごすことができます。

しかし楽しみは長くは続きません。個人的な差もあるでしょうが、楽しい事は続けること自体が難しかったり、楽しさに慣れてしまったりするものです。お腹が空いたからといって無限にミルクを飲み続ける事はできません。どんなに楽しい玩具もいつかは飽きてしまいます。その先の感情は無です。感情に揺れがない状態へと戻ってしまうのです。

怒り

自分の身に降りかかっている不快な状況が中々改善されないと、反射的に人間は怒り出します。乳児の頃は手を振り回したり泣き出すことで怒りを表現します。また言葉が喋れるようになれば、その怒りの言葉を耳にすることができるようになるでしょう。

それは不満の感情です。自分の思い通りにいかない周囲の世界への怒りなのです。他の環境が満たされていても何か一つ大きく不満な点があれば、意識はそこへ集中し、他の事では不満から目をそらすことは難しくなります。たくさん眠って満腹になった後でも、排泄物で気持ちの悪い思いをしていれば怒りとなってかえってきます。

3歳に近づくと反抗期が始まるのですが、これはもう「怒るために怒っている」と言ってもよいくらい怒りをあらわにします。しかし自分の発達してきた体を思う存分使っていろんなことがしたい。発達してきた知能で自分の世界を作り上げたいと思っている子どもに怒るなと言う方が無理な相談です。この時期の子どもは怒るものだと理解しながら、何故怒っているのかを根気よく聞きだしてみましょう。必ずそこに理由はあるはずです。

悲しみ

大抵は怒っている時点で周囲があれこれと原因を探して解決してくれるものですが、成長と共に不満な要素は沢山理由を持ってきます。怒っても怒っても不満が改善されない時には、怒る感情のエネルギーがなくなってしまいます。抵抗する気力が尽きたのに不満は続く。これが悲しい状態です。自分のことをどうにもしてくれない周囲への挫折の感情です。

少し成長した乳児をみていれば怒って泣いているのと悲しくて泣いている区別がつくと思います。幼児になってからもすぐに泣く子と泣かない子に分かれますが、これは我慢する力だけではなく、怒るエネルギーがすぐに尽きてしまうことにも要因があるのです。怒り慣れていない子ほど、しょんぼりと泣きます。それは小さい子が泣き怒りしているのとは別の要因なのです。

たまに反抗期の時期になっても反抗しない子どもがいます。親や先生からみるとホッとするかもしれませんが、これは逆に大変困ったことです。この時期に自分の意見や考えを外へ向かって開放できるようにならないと、それはかなり長く尾を引きます。良い子に見えるかもしれませんが、何かを我慢していたり溜め込んでいたりと、長期的な精神状態は良いとはいえません。

そんな時は子どもに対して何らかの圧力がかかっていないか考え直してみましょう。反抗期に反抗しないこと自体がおかしいことなのです。子どもが怒るエネルギーを失って悲しみにくれていないか、もう一度子どもに対する対応を考え直してみましょう。

無反応

子どもが無反応に過ごしているのをみて、子どもがつまらないのかな、と色々と喋りかけたり他の遊びに誘ったりすることがありますが、この場合は心配ありません。落ち着いて静かにしているのは今が満ち足りている事を意味しています。そのまま様子をみてみましょう。そして一人遊びに飽きたり、不平不満がある時に話し相手になってあげればよいのです。

この時に注意したいのが、普段から我慢強い子や不平不満をあまり自分から言わない子です。我慢強い子どもほど自分からは困った問題を人に言わないものです。問題を自分の中に溜め込んで、何とか解決しようとします。そのこと自体は大変立派で褒めてあげたいところですが、体調が悪くても我慢したり、トイレを限界まで我慢してしまったりと、後で大事に至ることもあるのです。子どもの個性に合わせて、顔色や状態をよく観察しましょう。

感情のエネルギー

喜怒哀楽を表に出すためには感情のエネルギーが必要になります。子どもの中に感情のエネルギーのタンクがあるとイメージしてみてください。子どもは大人のように泣くのを我慢したり怒るのを我慢したりはしません。感情は開いた蛇口のようにずっと外へ向かって流れ出していきます。

成長と共にこの蛇口を閉めたり開けたりできるようになりますが、小さい頃はすぐに感情が空になってしまいます。泣き疲れたり、はしゃぎ疲れたりすることがよくありますが、これは感情のエネルギーを使い果たしてしまった状態です。一眠りすれば回復しますが、逆にこんな時にどんなに楽しいもので釣っても喜びません。どんなに苦しい状態でも自分から表現できません。注意してください。

※この関連内容を書籍型pdfファイルにまとめたものが
「育てる技法」としてダウンロードできます
育てる技法<<<是非お手元にどうぞ