4一対一の対応の技術-7本当にやりとりはできているのか

相手の語彙の中で話す

もう一度書きますが、あなたは子どもの語彙、言葉の多さをどれくらい理解していますか。子どもが言葉を憶える時は教科書どおりに簡単な言葉から順に憶えるわけではありません。その過程はムラがあり、先に出会った言葉から順に広がり、簡単な言葉も出会う機会がなければ知りません。

この時点で言葉をきちんと隅から隅まで憶える必要はありません。放っておけば新しい言葉をどんどん憶えてくれます。何より大事なのは大人の側が、言葉を話す時に本当に子どもが知っている言葉なのかを理解しておくことです。また、知らない言葉が出てきたら子どもが気軽に「クリームって何?」「お茶って何?」と聞き返せるように、普段から子どもの質問に答えることを面倒くさがらないことです。聞き返したり、判らなそうにしているのを見て、こちらは子どもの側の理解度をはかるわけです。

相手の言葉を繰り返す

逆に子どもの話し始めは発音も曖昧で、意味もよく通じていないことがあります。子どもの話の内容をきちんと判って聞いているでしょうか。これも良い方法があります。子どもがたどたどしく喋った内容を、「車が走ってきて面白い、っていうことね」「空が真っ赤になって変な感じ、っていうことね」と繰り返すのです。そしてニュアンスや細部が違っていれば子どもに訂正してもらいます。

何回も同じやり取りをすると大人の方が疲れてきますが、できるだけ繰り返し、正確な意味を掴んでください。

このように自分が言いたいことを他人に説明する過程で子どもの中で言葉の意味は深まり、やり取りの中で新しい言葉を憶えていくのです。

相手の言葉に少し付け足す

子どもが喋ってきたことを、こちらが繰り返す時に、ほんの少しだけ新しい言葉や概念を混ぜて喋ってみましょう。「パパ、お仕事、嫌」という言葉に対して「パパがお仕事に『行く』から『寂しい』のね」というようなやり方です。こうして新しい言葉が自分の言葉に継ぎ足されることによって、子どもは単純に新しい言葉に出会うよりも興味が持て、わかりやすく、実用的に言葉を理解できるわけです。

こうして子どもとの会話はこちらが話すことを聞きとる力と理解する力と、自分で言いたいことに関連した言葉を記憶から探す力と表現する力、新しい言葉や概念を認識する力と記憶する力を使うのです。ほんの少しの会話の中に、これだけの複雑な過程が含まれています。

子どもの話に付き合うのは大変疲れる作業ですが、その分実りのある作業なのです。

その他の身体言語

やり取りに使われるのは単純な言葉だけではありません。身振り手振り、ジェスチャーや顔の表情など多くの意味を子どもは伝えようとします。そしてまだ知っている言葉も少なく、瞬時に最適な言葉を記憶から選び出せない子どもは、こうした身体言語に頼ることも重要なのです。

さて、そうした身体言語はどうやって憶えるのでしょうか。それは周りの大人たちの仕草を真似したり、子ども自身の中の溢れる想いが、そのままユニークなオリジナルのジェスチャーになる事もあります。そして多くの場合、それらは大変にオーバーなアクションで、不必要に大きな動作を要求します。それを大人は見て理解できたら、それを表すのに最適な言葉や、もっと一般的に通用する違うジェスチャーを教えてあげることができます。

何よりも必要になっている時こそ、新しいことを憶えるチャンスなのです。

相手の体の動き

子どもの手の動きはそのまま対象の動きを再現していることが多く、蛇を表すのにクネクネさせたり、車を表すのにハンドルを持つ動きをしたりします。また手の速さや手振りの大きさは、対象の速さや大きさを表していることが多く、子どもの中での印象によってどんどん大きなジェスチャーになります。

足の動きは具体的には何かを指すことは珍しいですが、手では表現できない自分の興奮や驚きをジャンプしたり駆け足したりする事で表します。また悔しい思いや納得のいかない思いは地団駄を踏むことで表現している場合があります。

顔の表情は泣いている顔、寂しい顔、笑っている顔、怒っている顔など、成長が進むにつれて、演技ができるようになります。他の子どもの精神状態を伝えたり、自分の過去の経験した気持ちを再現したりする時に使います。

これが出来るようになるということは、自分が怒っていなくても怒っているというジェスチャーを見せる事ができる、という大変重要な成長です。幼稚園などで、ごっこ遊びやお芝居などを練習する過程でこれが身につきます。

自分の体の動き

対する大人はどのようにして返せば良いのでしょう。基本は子どもが言語かできない想いをぶつけてきているのなら、それを表す言葉を教えてあげることです。子どもは必要に応じてすぐに使い始めます。その過程でニュアンスに誤解があったり、少し適用範囲が大きすぎたりすれば訂正してあげればいいのです。

しかし、こちらもジェスチャーで返すということも、子どもの好奇心を満たし、面白いやり取りになることがあります。逆に子どもが喋った事にピッタリ合うジェスチャーで返してあげるやり取りも、子どもの身体表現の幅を広げます。特にごっこ遊び等の中で子どもが求めていることは、格好良さや可愛らしさ以上に、別の主人公になりきる、演技をするという目的もあります。余裕があればできるだけ付き合って、新しい楽しみ方を一緒に考えるのもよいでしょう。

顔と体と言葉の一致

さて、ここまで言葉や表情とジェスチャーの話をしてきましたが、一つだけ注意点があります。それは悲しい話をしている時は悲しい顔で悲しいジェスチャーをすることを双方気をつけるということです。これは喜怒哀楽どの感情でも一緒です。これは最初子ども自身は守っていることが多いですが、気乗りのしない大人が渋々付き合って、嫌な顔をしながら楽しい遊びをしたり、面白い話の途中で怒ってしまったりする事で乱れていきます。

付き合う時には、一定の区切りまできちんと付き合いましょう。そして余裕が無い時は言葉だけでも返しましょう。

子どもは遊んでいるように見えても、日々が学習です。これは、遊んでいるように見える時でも、子どもは子どもなりに頑張っている、という意味でもあります。

頑張れば報われたいのは誰でも同じです。頑張って自己表現した事に対して、ねぎらいの言葉を忘れないようにしましょう。

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