2何が出来るのかを見つめる-5会話

泣き声

生まれてから最初の一泣き目で乳児は気道の確保と呼吸の仕方を覚えます。羊水に包まれていた胎児が外界に出て最初に発する一声は最初の呼吸でもあるわけです。それからしばらくの間は乳児は泣くことしか自分の状態を外に知らせる手段を持ちません。泣くか泣かないかしか表現手段がないのです。

しばらくすると泣き声の中にも激しい泣き声、ぐずったような泣き声などバリエーションが出てきます。これは、その時にどれくらいの不快さかを表しているもので、つまり量的な表現なのです。もう少したつと見慣れた周囲の人には何で泣いているのかわかるような使い分けができてきます。それは周囲が予想をしていることもありますが、本人も泣き声の変化の使い分けで周囲の対応が違うことに気づくのです。そして泣き声とは別のアー、ウーといった言葉が登場します。

他者の声を聞く

自分がまだ話せない状態にあっても乳児は周囲の人の喋り声をよく聞いています。聴覚の発達と声帯の発達は全く違うスピードで起こるため、自分が話すこととは無関係に周囲の人間の話し声を聞き、おおよその簡単な理解もし、やさしい口調、怒った口調などの判断もできるようになります。これは記憶され、経験の一部として自分が話せるようになった時に大いに役に立ちます。だから乳児が喋れないからといって、こちらも話しかけない、というのは無意味です。どんどん話しかけていろんな言葉を聞かせてあげましょう。

この時点で親の母国語などが本人のスタンダードになります。乳児の頃から英語のテープやテレビを見せたりというのが昨今流行っていますが、これは理論的には将来に英語が話せるようになるために役に立つ可能性はあります。ただ充分な追跡調査がされたわけではないので、逆に日本語の発達の妨げにならないか、言語的な混乱が起こるのではないかという意見もあります。今の所は本人が混乱しない限りは大きな問題はないようですので、聞かせてみるのも良い方法かもしれません。

他者の声に応じて行動を変える

乳児は言葉の意味がわからない時期からも、周囲の人間の声の大きさ、トーン等から好意的な言葉なのか否定的な言葉なのかを察することができます。逆に言えば褒めたつもりでも大きな声で鋭く言葉をかければ乳児には否定的な言葉に聞こえるわけです。イライラしながら「はい、良くできましたね」と言っても、ニュアンスによっては子供は怒られていると感じて萎縮してしまうこともあります。怒っているのに「だめよー」と優しく言っても怒られているとは思いません。この期間は子どもが単語を話す時期になっても続きます。文として認識できないからです。

周囲の人間がイライラしていたり、のん気にしている状態が声のニュアンスを変えてしまいます。乳児は周りの声のニュアンスで判断していることを忘れないで、ダメだといっているのに止まらなかったり、あやしているのに泣きやまなかったりする時は声のかけ方に問題がないか振り返ってみましょう。

自分からの発声

泣き声以外の声が出せるようになってから乳児は様々な声をだすようになります。声帯が鳴ることが面白いのです。その音が口の開き方や舌によっても変わるのに気づくと子音の変化も楽しむようになります。この時点では言葉を発することはただの遊びの延長ですが、そのうちに自分が出している声と周囲の人間が話している言葉が同じものだということに気づきます。これは乳児の声をオウム返しにして話してあげたりすることで多少時期が早まる場合があります。

最初に言葉らしき物を喋るのは母親(ママ)と食事(マンマ)を両方を要求するマーマーが多いのですが、それに限らない様々な例もあります。しかし単純で子どもにとって必要なものが優先的に覚えられることには違いないようです。

自分の声が他者に影響を及ぼす

自分の声によってママと喋れば母親が来てくれたり、ミルクがもらえたりすることで、子どもは自分の声によって外部の状況を変化させることができると気づきます。また自分の声と他人の声が同じ役割を持っている事に気づいて、話せなかった時期に聞き覚えた言葉も含めて他人の物まねに必死になります。

最初は発声もつたなく上手く聞き取ってもらえませんが、しだいに口を上手に動かせるようになっていきます。耳で聞いた言葉と自分が喋った言葉を上手く一致させるために何度も子どもは同じ言葉を喋りますが、なるべくうるさがらずに協力してあげましょう。変な発音の時は怒らずに同じ言葉をきちんとした発音でゆっくり喋ってあげるのが上達の近道です。

言葉が出るのが遅い子どももいます。あまり外界に興味がない子どもに多く起こりますが、子どもがうったえるまでもなく母親がそばにいたり、ミルクが出てきたりして要求する機会がない場合には、子ども側には喋る理由がないのです。

また周囲のものわかりが良すぎて泣き声だけで何でも察して用意してあげれば、それだけ言葉で要求する機会も減ります。子どもに自分から要求する機会をできるだけ作ってあげましょう。そのことを充分に理解して接しても言葉があまりにも遅い場合には専門医の受診をお奨めします。

やりとりの土台

幼児は自分が物には名前がある、ということがわかれば次々に名前を覚えて口にできるようになります。子どもの生活範囲、家の中や外で通る道などにある物の数の多さを考えてください。それを子どもは数ヶ月の間に名前を覚えて口にすることができるようになるのです。これは驚異的なスピードと思わざるをえません。

子どもにとって言葉や物の名前を覚えていく過程で外せないステップアップが二つあります。一つは二重名称、多重名称です。自分のことを呼ばれるのに名前で呼ばれたり苗字で呼ばれたり、時には坊ちゃん、嬢ちゃん、お前、君、下に君がついていたり、さんがついていたりと、自分の名前だけで様々な呼び方があることを覚えて、それが自分という同一の物への呼びかけだと認識するわけです。これは自分以外にも母親がママ以外に名前で呼ばれたりすることなどで、最初は戸惑いますが一つの物に多重の呼び方があることを受け入れていきます。

もう一つは抽象概念です。ペットのタマという猫がいるとします。タマの名前はタマです。しかし四本足で小さくてニャーと鳴くのは猫だという知識もあります。そして猫や犬を全て動物という概念でくくることも覚えます。こうして上位クラスからの概念の継承を学ぶわけです。

また赤い黒いや熱い、冷たい、うるさい等の実際に実物があるわけではない概念を学んでいきます。これは高度な精神活動で、様々な物を見たり聞いたり名前を覚えたりする中で獲得される能力です。つまり個別に名前を覚えていくのには限度があるので、それをより大きな概念でくるんでしまうわけです。それは歩く、走るなど動詞としての言葉の概念も含みます。こうして自分の中にも語彙が増え使う事ができるようになり、相手の言葉もおおよそわかるようになってきます。

単語から文へ

単語は一つずつの最低限の文の要素ですが、二語文、三語文を話せるようになるには、文法のルールなどを難しく教えることはできませんので、周りの人たちの口真似、言い回しのまねから始まります。周りの人間の言葉をよく聞くと自分が知っている単語の間に色々な言葉が混じっていることに気づきますが、そのルールがわかりません。そこで全体を真似しようとするのです。

最初の二語文は単語の連続として現れます。白い犬、パパ嫌い等です。てにをはも無く、文法的にも不正解ですが、とにかく意味は通じます。周囲の人間もそれをわかりやすい文法で教え返してやることで、子どもの言葉もきちんと構造化されていきます。そして三語文が喋れる頃には、おおよその文法的な言葉が話せるようになってきます。

子どもにとって言葉は一生使っていく大事な道具です。できるだけ会話に付き合ってあげて能力を伸ばす機会を増やしましょう。会話は一人だけでは練習できないのですから。

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