4一対一の対応の技術-4怒っているふり

自分は想像以上に揺れ動いている

あなたは、そんなことはない、自分は常に冷静だと言うかもしれません。しかし、そのように答える人が一番危険な行動を取ります。自分の事を何度も振り返り、検討して、修正して人間は最小限の揺れでいられるのです。自分は揺るがないと思っている人は、もう一度自分の行動が子どもによって、その他の家庭的、社会的、仕事上等の懸案によって軸がぶれてないか振り返って下さい。

もう一度言いますが、自分は冷静だと思っている人ほど冷静でない人間はいません。それは自分が見えていない、もしくは自分の動揺、混乱、苛々を見ないようにしているだけです。人間は機械にはなれません。揺れない人間がいる方がおかしいのです。それをまず認めてから子どもの前に立つようにして下さい。

常に自分の状態を把握する

自分の面前の子どもの様子を観察すると同時に、あなたは自分の状態を深く観察するべきです。その理由は子どもにとって、あなたの一つ一つの行動が、常に自分にとっての行動の基準になり、模範になるからです。

子どもがひどい暴言を吐いているのを、よくよく考えると知り合いや家族の真似をしている、という場面は幼児初期によく見られます。あなたは暴言だと思っていなくても、あなたのいないところで子どもはあなたの真似をしているかもしれません。それも、もっともひどい形で。

聖人君子になれとは言いませんが、子どもの前では真似をされても不都合でないだけの紳士的、淑女的な振る舞いをすることが求められます。「この子は誰に似たんだろうね」と言われる時に良い所を真似してもらい、悪い所を真似されないようにしてください。

怒っている、という演技

子どもを注意する場合、本気になって怒ってはいけません。誤解しないでほしいのですが、きつく叱るなと言っているのではありません。本気で怒っている時は人間は怒り方を調節できなくなっています。それではマズイのです。

きちんと冷静に「本気で怒っているフリ」ができないと、いけないのです。こちらも人間なので機嫌の良い時悪い時があります。それに左右されないで、子どもにとって、その時に最良な怒り方、褒め方を心がけてください。つまり演技です。苛々している時でも子どもを褒めなければならない場面も、機嫌がよくて何でも許せる気分の時に子どもを叱らなくてはいけない時も、語気や口調に現れないようにうまく演技をしてください。

伸び縮みしない物差し

今まで曖昧に言葉を濁してきましたが、本来次の言葉はそれぞれ意味が違うものです。怒る、叱る、注意する、助言するなど、人に言うことを聞いてもらう言葉はいくつもあります。怒るということは、こちらが人として怒っているのだ、と相手に伝える行動です。叱るというのは、良くないことをやった時に、第三者の視点でダメだと叱ることを言います。注意するのは、もっと簡単にできるはずの事を次から注意して失敗しないようにすることです。助言するのは、相手に落ち度はなく、より高度な成長を促すために助言するのです。

これらの態度を使い分けられるようになってください。厳密でなくてもかまいません。あなたは子どもたちの行動をはかるものさしです。あなたの言動によって、子どもたちは、良いことか悪いことか、それがどれくらいの事なのかを知ります。そのものさしが勝手に伸び縮みして子どもたちを混乱させないようにしてください。

相手は常に自分を見ている

子どもたちはあなたが気づいていない時にもあなたの事を見ています。遠くから見ている時、近くで後ろを向いている時、常にあなたの視線がどちらを向いているか、あなたの表情がどうなっているか、あなたの声が怒っているのか笑っているのかを気にしているのです。

そしてそれによって行動を変えたり、真似をしてみようとしたり、時には見ていないと思ってイタズラをすることもあります。常に見られている事を意識してください。真似されることを覚悟してください。指導力が試されるのは、こういう本人が気を抜いている時です。逆に言えばちょっとした視線や、少しの声かけで大きな成果をあげることも可能なのです。うまく利用して最大の効果をあげましょう。

わかりやすい注意のしかた

子どもに注意をしたり、説明をしたりする時、あなたはどのような言葉で喋っているでしょうか。子どもにとってわかりやすい説明とは、自分が知っている単語と知識と概念の中で、順序良く簡潔にされる説明の事です。語尾に幼児言葉を付けて、しまちょうねぇ、だめでちゅよぉ、等とぼやかすことではありません。

子どもの成長具合はどれぐらいでしょう。何語文を喋っているでしょうか。単語の語彙は増えていますか。知っている知識はどこまででしょう。概念は発達していますか。それによって最適な説明が見つかります。注意されている時には子どもは怖くて、自分が知らない単語や、わからない概念が出てきても質問できません。子どもに復唱してもらったり、子ども自身の言葉でもう一度言ってもらい、理解できているかどうか確かめましょう。子どもにとって理解できない無理な注文を出して、それで失敗を咎めてしまえば、あなたはただの意地悪な人としか認識されなくなります。

自分の中での線引きをはっきりする

皆さんは子どもを叱ったり注意する時にどのような尺度で怒っているでしょうか。それは人によっても違いますが、例として私の場合を話しましょう。

第一に命にかかわる緊急事態や大事故につながる恐れのある瞬間です。道路に何度も飛び出そうとしたり、ストーブの近くでふざけてみたり等が相当します。これはもう何をおいても止めなければなりません。体罰を肯定はしませんが、この場合は羽交い絞めにしてでも止めなければ命が失われます。

次は今すぐではないが命に関わったり大事故につながる恐れのある行為です。フォークを振り回して食べたり、ガスレンジでイタズラするなどです。これは非常に強く叱ります。それが重大なことだと認識してほしいからです。

次はルールに反することです。約束を破ったり、決まりを守らなかったりする行為です。これはきちんと理由を示して注意します。この叱り方が全部の基準になります。話が長くなっても、子どもが困っていてもわかるまで注意して理解度をはかります。

次はマナーに関することです。社会的に見て恥ずかしい行為は止めてもらいます。店で走り回ったり大声を出したり、食べ物をこぼしたり、吐き出したりする行為です。これは子どもの成長や発達の度合いと相談しながら注意します。できる事はやってもらい、やってはいけない事はきちんと理由を説明しましょう。少し優しい口調でもかまいません。徐々に出来るようになることが重要だからです。

最後に、できた方が良いことです。紐の結び方だったり、帽子のかぶり方、歩き方、食べ方など基本はできているのだが、もう少し高度に出来るようになってもらいたいことです。これは叱ったり注意したりするよりも、励ましたり助言したりするような態度で接します。

別に五段階である必要はありません。必要なことは事の重大性に合わせて怒り方を前もって決めておく、ということです。子どもにとって怒り方は一つのものさしです。同じイタズラをしたのに毎回怒り方が違ったり、ストーブを倒したりするイタズラと洋服のボタンをかけ間違えた失敗を同じ強さで怒ってはいけない、ということなのです。

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