2何が出来るのかを見つめる-4味覚と食事


空腹

誰もが知っているとおり人間は食事を取らないと生きてはいけません。胎児の頃はへその緒を通じて自動的に栄養を取っていた子どもも、出産後に外界に出てからは自らの口を通じて呼吸と食事をしなければなりません。出産時期が極端に早い場合はしばらくチューブなどを使って栄養を取ることがありますが、いずれは口から取る生活に変わるのは一緒です。

しかしどれくらいの頻度でどれくらいの量を取ればいいのか、乳児自身は量ることができません。そこで重要になるのは空腹感です。栄養を取るべき時間、量をはかるセンサーとして空腹感があるのです。出産後しばらくは口から摂取することにも慣れなく、胃の内容量や消化にかかる時間等により、少しずつ与えては空腹感が無くなり、少ない時間で次のミルクを欲しがります。これにより多くの母親は不眠や生活時間の乱れで苦しい思いをすることになりますが、急激に一度にあげる量を増やしたり無理に時間間隔をあけても、なかなか解消は難しいでしょう。

しかし、ただ待っていても変化はゆっくりなものです。無理のかからない範囲で、睡眠の時間の固定などとも合わせて、食事の時間間隔をあけていきましょう。そうすれば一回の摂取量もゆっくりと増えていきます。

本能の満足

空腹感は栄養を取るべき量を知らせる緊急アラーム的な不快なセンサーでしたが、栄養の量が充分であることを知らせるセンサーが満腹感です。空腹という不快な状態から満腹という快適な状態に移るために乳児は食事を取るのですが、ここに一つ落とし穴があります。満腹感を感じるまでには、しばらく時間がかかります。これは大人でも同じことです。食べ過ぎれば逆に過剰な満腹状態で胃が不快な状況を知らせてくれますが、これが時間的に遅くやってくるのです。

乳児は、この時間の感覚がわからず満腹感を得ようとミルクを吸い続けます。満腹感が満たされても、満足して止めるということにはなりません。吸う=満足なわけですから止める理由がないのです。もうお腹いっぱいになって吸うのをやめる、という時点では既に満腹を通りこして不快感が出ている状態なのです。

なので飲んだ物を吐いてしまったり、続けていれば体重の増加につながったりと乳児のミルクの量の調節は難しいものです。一回のミルクの量を決めるというやり方もありますが、子どもも成長の度合いや個人差で必要とする量は大きく違います。およそ満腹になりそうな量を吸い終わった後、時間をあけながら本当にそれ以上の量が必要なのか見つめていきましょう。

吸うから噛むへ

口の中に吸い込んだ物を喉の奥に飲み込む、という行為はそれだけで難しいことのようですが、しばらく気道に入ってむせたり、飲み込み損ねてこぼしたりということを繰り返してできるようになります。この時点では歯茎と唇はほぼ一体化して動き、舌は味覚を判断して味わうために使われています。

歯が生えてくるのと前後して離乳食が開始されますが、ほとんど噛む必要のない物から少しずつ少しずつ硬いものへと移りますが、何故こんなに時間と手間がかかるのでしょう。それは噛んで飲み込むという行為が非常に難しくデリケートな作業だからです。

唇で口の奥へ食べ物を移動させ、舌を使って歯茎や歯の適当な位置に配置し、それを歯茎や歯がすりつぶし、充分に柔らかくなった物を再び舌を使って喉の奥に移動させ飲み込みます。そして次の食べ物を唇が運んでくるのです。このコンビネーションが充分に上達していなければ、固形物を噛んで飲み込むという行為は難しいのです。特に歯の生えはじめは誤って唇や舌を噛んでしまったりすることさえあります。

味覚の多様化

食事が液体であるミルクのみの場合は満腹か空腹かの違いだけで嗜好というものは現れません。他の物を口にする頃から味覚というセンサーが働きはじめます。これは良く知られているように、舌の部分部分の位置に辛さ、甘さ、苦さ、酸っぱさを感じるセンサーがあり、これによって口に入っている物の味が判別されるわけです。

最近はこの四つに並んで、うま味というものを第五の味覚に数えるということもありますが、食べ物の味というのは、それほど単純な分類で分けられるものではありません。甘辛とか甘酸っぱい等、子どもにとっては不思議な甘いとも辛いともつかない微妙な味の物はたくさんあります。これをどう判別するか、甘いというグループに入れるのか、甘酸っぱいという新しいグループを作るのかが子どもの味覚の形成に大きな割合を占めるのです。

味覚の根源

古来、生物としての人間は他の動物と違って食べるものに制限がありませんでした。雑食性なのです。なので好きな物を食べれば良いのですが、火を使えるかどうかも怪しい大昔の人間には、加熱調理して雑菌を殺したり、発酵の過程もわからず賞味期限もわかりません。そこで、食べてみて甘く感じるものは栄養やカロリーを摂取できるもの、辛く感じるものは塩分やミネラルなど生きていくために必要な成分を摂取できるもの、として判断してきたのです。では自然界で調理をしないという条件の下で、酸っぱいもの、苦いものを思い浮かべてください。そうです、自然界においては酸っぱいものは腐ったもの、苦いものは毒性のあるものなのです。

進化の途中で加熱調理や発酵保存が研究され、人間は酸っぱいものや苦いものも食べられるようになりました。そして複数の味を組み合わせることで味覚を楽しむ要素へと変えたのです。ただ子どもの頃に、まだ様々な味覚の経験が積み上げられていない段階では、生物の生き残る手段として酸っぱいもの、苦いものを嫌う傾向があるのです。

見た目、匂い、食感との関連

様々な食べ物、食材、調理法がある中で、好みを決める要素はなんでしょうか。もちろん味は大きな比重を占めますが、それ以外の要素も味覚の嗜好が作り上げられる上で少なからず影響を与えます。

まず見た目ですが、レストランや料亭のように飾り付ければ良いというものではありません。子どもの頃に大きなポイントになるのは色です。白いもの茶色いものには甘みがある可能性が高く、緑のものは苦い可能性、青いものは酸っぱい可能性もあります。子どもは少ない経験から導いているので、世の中にはこれが当てはまらないものも多くあることを知る必要があります。例えばグリーンピース自体は甘いのに嫌いな子は多くいます。これは緑なので野菜の仲間、しかもハッキリとした緑だから、より不味いだろうという予測が働いています。すり潰したり甘い味付けをして苦手意識を無くす方法などは、この見た目に対しての拒否感を拭い去る方法なのです。

匂いや食感も大事な要素です。匂いでは特に酸っぱい匂いが刺激臭として嫌われます。これを他の匂いで隠したり、匂いの目立たない酸味料を使ったりするのも一つの手です。また食感では硬いものとふんわりしたものは嫌われにくいのですが、ドロドロしたもの、食感がハッキリしないものは、子どもにとってどうとらえていいのかわからず嫌われます。トマトなどはその代表です。できるだけ硬い新鮮な物を外側の部分を料理してだす方法など、苦手意識を取り去る方法はいくつかあります。

好き嫌いの成立

好き嫌いというのは、栄養が偏るという意味では大変な問題ですが、逆に好き嫌いがあるからこそ食事を楽しむことが出来るのだということを忘れないでください。食の好みと言い換えてもかまいませんが、好みがあるから好物を楽しむ事ができたり、苦手な食材の意外なおいしさを発見できたりするのです。

よく言われる「好き嫌いを無くそう」という言葉ですが、すこし語弊があるので説明しておきます。これは「好きなものも嫌いなものもバランスよく食べよう」という意味であって、全ての食材を好きになれということではありません。好き嫌いはあってもいいのです。それは個性に関わる重要な嗜好だからです。ただ嫌いなものも食べられるようになろう、ということです。好き嫌いは他人に強制されて好きになれるものではありません。ただ、嫌いな物を食べる我慢強さやチャレンジ精神は鍛えることができます。子どもの偏食指導をする場合は以上を念頭に置いて嫌いなものも頑張って食べられる心を育てていきましょう。

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