3環境や場を整える-7他の子ども

大人ではない他人

子どもは最初に大人とは対人関係を上手く築くことができます。大人は自分の名前を呼んでくれるし、自分に応じたわかりやすい対応をしてくれます。しかし、他の子ども(特に同年代)には、それは当てはまらないことなのです。他の子どもは基本的に自分勝手に泣いたり叫んだりと、他の子どものことはあまり考えていません。

自分がそうであるように、お互いが「子ども」という分類を理解できるようになるまでは、それはただの背景、又は勝手に動いたりうるさい音を出すだけの物なのです。

自分と同じように、その物に名前があり意思があり、自分と同じように行動するとわかった時に物から者へと認識が変わるのです。ハイハイを始めた頃までは他の子どもという認識がないため、他の子どもの上をかまわずにハイハイして行ったり、他の乳児が移動しているところへぶつかったりということがあります。単なる障害物から、同じ特徴を持った仲間に変わるのは意外と後のことなのです。

同年代の友達

検診や最初の登園でも同年代のグループで固まって扱われることが多いため、子ども同士の認識はまず同年代の子どもからはじまります。同じように並んで寝たり、一緒にご飯を食べたりすることで横のつながりができてきます。

何よりも先生が他の子どもと自分のことを同じように扱うことを見て、子どもは自分のポジションを理解します。またそれは先生にかまってもらいたい、独占したい欲求とは相反するために、子どもたちは競って先生にかまってもらおうとします。この頃から少しずつライバル心や競争心というものが芽生えてくるのです。

年上の子ども

年上の子どもは、自分がまだ子ども同士の仲間意識を持たない頃から、名前で呼びあったり一緒に遊んでいたりする不思議なグループです。そしてその行動がうらやましくて、子どもは自分のポジションがわかってくると年上や自分より発達の早い子どもの「仲間にいれて」もらおうとします。

年上の兄弟がいる場合には慣れていますが、そうでなければ年上や発達の早い子どもとの遊びは、よくわからないルールがあったり、能力的についていけなかったりと不都合なことも多く起こります。年上の子どもも少しは理解していますが、先生達のように暖かく小さい子どもを見守ることはできません。そこで遊びの輪は自然と同年代や同じ程度の能力の子どもたちとの遊びに切り替わっていきます。

年下の子ども

年下の子は子ども自身にとっては謎の存在です。自分がつい最近まで通ってきた道であるのに、子どもにはまだ成長という概念が薄いために、何でその子が泣いているのか、何で言われたことを守れないのか理解ができないのです。

それでも自分たちと同じ子どもであるということはわかっていますから、相手にも人格があることはわかります。泣き叫ぶだけの乳児も、自分たちと同じ子どもなのです。ですから、優しくその子の成長を見守ることもあれば、小さい子を苛めてしまう子どももいます。

特に自分が何かできるようになった時には、他の小さい子にも、それをさせようとすることがあります。自分より小さい子の成長を長期間見ることで、自分もそうして成長してきたのだ、これからも成長していくのだと認識できるようになるのです。

自分と他の子どもの違い

猫や馬は動物、赤や青は色というような分類を憶えはじめた子どもにとっては、「子ども」という分類は初めて自分が入る分類です。それは似ている物を一まとめにするグループ化という概念ですが、最初は自分とその周りの子どもは違うことばかりです。男女、身長、性格、服装、何もかもが違うのです。それが同じ制服を着たり、園でおなじ活動を行っていくうちにグループとしての自覚が出てきます。

そして同じグループとして活動していても、そこからはみ出す個人個人の性質を個性として認めるのです。あの子はワガママだ。あの子はおとなしい。あの子は足が速い。とりあえず歳が近いというだけで一緒になったものの、様々な個性が子どもにもあります。そしてそれは自分との比較で導き出されたものなのです。相対的に社会的な個性を導き出すのは、まだまだ先の話です。なので、この時点では自分自身の個性については良くわかってはいません。

集団の中の位置

大きな集団の中に身をおいていると、子どもの中でも自分の位置関係を相対的に知ろうとする意識が芽生えます。保育園の名前、クラスの名前等を憶えて、その一員としての自分を少しずつ客観的に見ようとしてくるのです。その歩みは少しずつゆっくりと進みます。

また、仲良しグループの少人数の中でも立場や役割が決まってきます。グループを先導する人間、ついていく側の人間等のポジションができてきます。先生たちはその位置関係に気を配る必要があるでしょう。その位置関係は急に変わったりすることは中々ありません。最初はほとんどの子が自分本位で動きますが、少しずつ各人の性格に合わせて位置関係が決まってくるのです。

自分自身の確立

さて、ここまできて子どもを取り巻く環境に様々な要素があり、子どもが直面する場にも様々な場面があることがわかります。これは子どもにとっては、断片的に一つ一つの場面だったのですが、少しずつ連続性があること、お互いに関連しあっていることを子どもたちは学んでいきます。

保育園の自分、クラスの中の自分、グループの中の自分、家での自分、兄弟間系の中の自分、近所の公園での自分、親戚の中での自分など本当に数多い自分がいるのですが、これが一人の自分であることを学ぶことによってアイデンティティ(自我同一性)が確立されるわけです。

場面場面で多少は変化するものの、全体を貫く一つの個性の誕生です。そして時間的にも乳児の頃の自分と去年の自分と今の自分、全てが一つのものだと認識して、初めて延長線上の未来の自分を想像することができるのです。

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