「前のこと憶えてる?」相手を知る言葉

周囲の大人は、子どもの本人の事をわかっているつもりです。もちろん大体のことは見ていてわかりますし、普段の会話から何を考えているのかも想像できます。
ですが「大人が知っている子ども本人の情報」と「子どもの脳内の本人についての情報」は、時として不揃いで食い違っているものです。

使用目的

「あの時のこと憶えてる?」「昔のこと憶えてる?」と子どもに問いかけることで、子どもの中で物事がどう捉えられているのか、どう記憶されているのかを知ることができます。

記憶力のテストという側面で言えば、「憶えているかいないか」「間違った記憶が残っていないか」「他の記憶と混在していないか」を子どもの口から聞くことができます。

また時々でもいいので「他人から要求されて」自分の記憶を振り返ることで、自分自身の記憶の整理をすることができます。何度も思い出すことで記憶は強化され忘れにくくなりますし、曖昧だった記憶が他人に話すことでハッキリする効果もあります。

メリット

子どもは大人に比べれば人生経験が少なく、体験談も少ないと思われがちですが、ほんの数年でも子ども自身にとっては「人生丸ごと」であり、非常に重要な「振り返るべき人生」なのです。

そこを踏まえて大人が話を聞いてあげることで、自分自身の体験が「大人にとって取るに足りないもの」ではなく「興味深い出来事」であることを知り、自信につながるのです。

また口に出して話すことで、相手と思い出の共有をすることができ、信頼感と親密さが生まれます。誰しも自分のことをよく知っている人とは仲良くなりやすいものです。

デメリット

体験談、思い出話は楽しいことばかりだとは限りません。思い出したくないことや触れてほしくない部分に話がおよんでしまうかもしれません。

この場合、子どもは「うまく話をそらす」「うまく話を伏せる」技術をまだ持っていません。喋ってしまって後悔したり、急に押し黙ってしまうかもしれません。

特に大人が子どもの思い出話をする場合「失敗の経験談」「子どもの愉快なエピソード」をすることが多いものですが、これを子ども本人は大変嫌がります。何度も面白がって繰り返されれば尚更です。

必要になる場面

最初のうちは前にも似たようなことがあった場面で「前にもあったね」「この前はどうしたっけ?」と話を振るのがいいでしょう。

話の流れも不自然にならず、なにより本人も思い出しやすいからです。今現在の出来事と記憶が混乱することも防げます。

少し成長すると、普段の関係ない場面でも昔のエピソードを話せるようになるでしょう。楽しいエピソードであるなら自分の方から喜んで話してくれることも増えてきます。

使用例

「昨日のご飯は何を食べたっけ?」
「去年の夏こと憶えてる?」
「前にも同じようなことがあったよね?」
「テレビのお話は最初の頃どうだっけ?」

使用後の注意点

子どもの記憶はまだまだ完成されていません。記憶をしまい込む方法も、頭の中で整理する手順も、記憶を思い出す方法も一つ一つが発達途中なので、間違った答えや記憶が作られてしまうことが多いのです。

思い出したエピソードに「こうなったらよかったのに」という願望が混じっていたり、似たような体験が全てごちゃ混ぜになっていたりすることはよくあることです。

それを否定すること、正すことは必要ですが、かなり繊細な注意を払わないと、子どもは混乱します。まず第一に最初から強い口調で全否定し「全然違う」という事は避けましょう。

写真やビデオ、わかりやすい「証拠」があれば、それをさりげなく見せるのもよいでしょう。「あなたはこう憶えている」という話だけでなく、あなた以外の大人の記憶も聞いてみるのもいいかもしれません。

重要なポイントは否定される前に本人が「あれ?おかしいな」「僕が間違って憶えていたのかな」と気づくことです。これができれば次からの記憶の方法によい影響を与えます。「全てがうろ覚え」という状況から進むのに好都合です。

応用

昔のエピソードをいくつか話せるようになったら、次はそれぞれのエピソードの順列を聞いてみましょう。「どっちが先だったっけ?」「順番はどうだったっけ?」等です。

これは大変難しく、大人でも間違いが多いものですが、時間感覚の発達、原因と結果の理解、頭の中で「一連の流れとして思い出す」ことを促進します。

また何度も話すお気に入りのエピソードが子どもによってあるでしょう。それを「この前に話してくれた、あの話をもう一度聞かせて」と、話すこと自体をエピソードとして積み重ねることもできます。