6多対多の対応の技術-3誰も見ていない部分は無いか

誰も全体を正確に把握することはできない

子どもの周りにいる大人たちは大人数で、それぞれが別の時間、別の場を見守っています。その為に一人の人間が24時間一人の子どもの世話をして見守る事は不可能です。寝ているか起きているかだけだった乳児も成長と共に生活パターンも複雑になり、様々な場面の転換に向き合うことになります。生活の多様化です。

そこでは誰か一人の人物が子どもの全情報を把握しておくのは無理なことです。一番の情報を持っているのは親でしょう。そして次に園での担任が続きます。様々な情報を集めて理解しようとしても全体を隈なく把握する事は難しく、そこで情報交換の大切さが浮かび上がるわけです。

自分が見えたもの、感じたもの

まずは大人の一人一人が自分が見た事を正確に他の人に伝達する事から情報交換は始まります。自分のそばにいる間の行動、失敗、試行錯誤、興味の対象、できたこと、できなかったことを正確に記憶しておき、他の人に伝えます。

その際、自分が想像した事、推理した事も同時に伝えます。盛んにジャンプを繰り返していたが棚の上に興味があるんじゃないか、少し食欲がなかったがその前に水を飲みすぎたんではないか、等です。これは実際に起こった事とは区別して、自分の考えとして伝えるようにしましょう。

次に自分がその時にどのように対応したのか、その対応によって子どもの行動がどのように変化したかを伝達する事が大事です。トイレの時に行ったら出なかったが5分ほど座っているように言うと出た、等の情報はとても有意義です。これも忘れないように伝えましょう。

情報の共有

自分個人が見た事を胸に秘めていても何も得にはなりません。これをみんなで情報共有する事が大事です。家族内でも親だけでなく他の家族などから情報を教えてもらって、子どもの全体像を掴みましょう。家での生活パターンと成長具合を把握するのです。

そして園の側でも引継ぎや情報交換によって園側の生活の状況を細かく判断して家族に伝えます。特に先生間での情報伝達が上手くいっていないと大きなトラブルを招くことがあります。家庭での様子や園での様子は、それぞれが互いに連絡を取り合い、同じ情報を持っておくことが大事です。

家と施設での連絡

園でのことは園にお任せ、家庭での事は家庭にお任せになっていないでしょうか。よく連絡帳に「今日も元気です」「今日も楽しく遊びました」等の簡単な挨拶の文句しか書いていないケースを見かけますが、これはとてももったいない事です。確かに毎日連絡帳を細かく書くのは先生も保護者も大変なことです。しかしここに一番力を注いでほしいのです。

成長期の子どもの事、全く何も変化がないことはありません。無いように見えたら、こちらから積極的に探してください。「今日は家で片付けの練習をしました」「園で砂遊びで山を作りました」のような他愛のない事でもいいのです。

その情報を知っていれば、園では「家でやったように片付けしてみようか」、家では公園に行った時「この間、園で作った山を作って見せて」等、活動の継続に繋がります。この情報がなければ完全に子どもの興味はストップするでしょう。

子ども一人の生活の流れを想像する

園側も保護者側も、子ども自身の一日の流れを大体は把握しておくようにしてください。特に園側で先生たちは子どもが帰ってどのような家庭の過ごし方をしているのか無理解な場合が多く見られます。これは考えていないのではなく、情報がないからです。

園から帰って必ず手洗いやうがいをしているのか、食事時間までは何をして過ごしているのか、食事は和室で食べているのかダイニングで食べているのか、食後はどの部屋で何をして過ごしていることが多いのか、好きなテレビ番組は何か、お風呂に誰と入ってどこまで体を洗っているのか、何時ぐらいに寝て起きているのか、夜尿の有無は等、先生達の知らないことが家庭には沢山あります。

保護者にとっては当たり前の情報でも、先生側が知らないのは残念なことです。これを知っていれば園での活動にも大きく役に立つことがあるかもしれません。

逆に保護者は園での時間割ぐらいは知っているでしょうが、細かくどんな風に行っているのか知る機会も少ないでしょう。お互いに子ども本人の一日の流れを考えて自分がどこからどこまでを担当しているのか、よく理解しましょう。

不明な部分を洗い出す

園でも家庭でも常時つきっきりというわけではありません。もちろん危険の無いように視界の中にはいるかもしれませんが、完全に子どもを監視しているということはないでしょう。逆に監視されているような印象を子どもが持てば、それはあまり良い気分ではないでしょう。先生も親も充分見ているような気になりますが、ところどころ抜けているところがあるかもしれません。

情報交換を行う中で抜けているところが見つかるかもしれません。最近トイレが出来るようになったからトイレのやり方をよく見ていない、玩具で遊んでいる時にどんな遊びをしているのかよく見ていない等です。お互いに不明な部分はどんどん聞きましょう。そして情報が足りなければ、次からはそこを重点的に観察すれば良いのです。

心の動きを追う

子どもの一日の行動はこれでトータルして追えるようになりました。しかし精神的な部分はなかなか外から見ただけでは判りません。これについては行動から想像するしかないのです。子どもの心の一日の動きもできるだけ見て、想像して補いましょう。

朝、お母さんと朝ごはんを食べてご機嫌、園に行くのを嫌がるがバスに乗ったら楽しい、園での活動で疲れてグッタリ、食事で嫌いな物を食べろといわれてションボリ、お母さんが迎えに来て喜んで帰る等というように、子どもの感情や心は一日の中でも大きく運動し、上下動を繰り返します。

実際の行動とあわせて内面の情報も良く読み取り、情報を交換できるようにしたいものです。

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