7対応→反応→対応の連鎖-2子どもにとっての意味

子ども側の視点

大人たちは周りで右往左往していますが、これを完全に子どもの視点から見てみましょう。まず第一に子どもが自分以外に複数いる場合は、園だろうが兄弟姉妹だろうが100%相手の関心を引くことはできない、という事実です。これはどんなに小さな子どもでもわかります。上の子が赤ちゃん返りをおこしたり、下の子が上の子を憎むようになることも当然ありえるわけです。

こうならないように過剰に平等であることを意識した対応もあります。姉妹で全ての服をおそろいにしてみたり、遊びや食べ物を無理に平等にする園などもありますが、そういう見かけ上の平等では子どもの心は満足しません。

そして事実完全に平等だったとしても、子ども心は更に親や先生の独占を望むのです。むしろ完全な平等は諦めて、その子どもにあった言葉かけや対応を突き詰めていった方が効果が上がります。

褒められた

子どもは大人に褒められた時には、素直に喜びます。しかし褒められた時に、そのうれしさと内容が結び付けられていないことも多く見られます。自分が行った動作の何処を褒められたのか、具体的に言われないと、それは関連付きません。段差からジャンプしたことを褒めると、ジャンプという動作ができるようになった事、元気が良いことを褒めたかったはずなのに、より高い所から飛び降りてみようとして怪我をすることさえあります。

褒める時にはきちんと何が、どのように、どれくらい良かったのかを話しましょう。そうすれば子どもは自分がどの方向に向かって成長すればいいのかを理解することができます。

しかしそれを説明しなければ褒められたことに夢中になって同じ行為を何度もやってみたり、周囲が望まない方向に伸びていこうとするかもしれません。こうなれば褒めたぶんは褒め損です。適切に言葉をかけることで逆に少ない回数で正しい発達を促すこともできるのです。

叱られた

叱られ方によっては、子どもは恐怖や驚きのあまりに怒られた内容は全て頭から飛んでしまって、ただ泣きじゃくったり逆に怒りだしてしまうことがあります。子どもが悪いとわかっている事を恐る恐るやることは意外と少ないものです。

怒られる多くの場面は、子どもが何が悪いのかわかっていなかった場合か、悪いことだと知っていても瞬間的に忘れてやってしまったかのどちらかです。

なので怒られた瞬間、子どもはその展開を予想もしていなかったことが多くあるのです。急に怒鳴られて子どもはビックリし、まだこの時点では何が悪かったのか冷静に思い返すことはできません。なので必ずここで一呼吸おきましょう。

事故が起こりそうな時や危険な時に大声で制止するのは当然ですが、危険がなくなったら、しばらく子どもと向かい合ってみましょう。

できればここで呼吸を整えた子どもに何が悪かったのか自分で考えてほしいところです。こちらから「何で今、怒られたと思う?」と尋ねてみてもかまいません。

悪い場面を目撃して大人も気がたっています。そのままで言い合ってもケンカのようになるだけです。大人も声を落ち着け静かに話しましょう。叱る目的はあくまで「次に同じ悪いことをしない」ようになるためです。

子どもが戸惑って考えがまとまらないうちに非難の言葉を続けても、子どもにとってはただの嫌がらせになってしまいます。怒りと悔しさで子どもは全てを忘れてしまいます。これでは怒り損です。

子どもが落ち着いてから、理由によってきつく叱ったり怒ったりする事は効果が上がります。しかし、それはあくまで子どもが話を聞く体勢を整えてからにしてください。

無反応

子どもは最初大人はずっと自分のことを見てくれていると思っています。実際に乳児の頃はほとんどつきっきりで、何か他のことをしていても子どもは視界に入っている事が多いでしょう。

しかし幼児になって行動範囲も広がり、動きも速くなると子どもはすぐに視界から消えてしまいます。また安全な場所なら子どもが遊ぶにまかせて目を離すことも多くなるでしょう。それに慣れるまでは子どもはいつも自分を見てくれていると思っていた親を見失ったり、先生とはぐれたりで迷子になってしまうこともあります。この迷子は子どもが思っているだけで、実際にはたいした距離を離れているわけではないのですが、子どもなりに不安感を覚えるのです。

そして次は自分から積極的に親や先生に自分をアピールしようとしてきます。見てほしいわけです。これは他の子どもがいれば、当然その他の子どもがライバルになります。

ここで子どもが期待しているのはもちろん褒められることです。時には何か間違っていて叱られるかもしれません。しかし、ここで思ったほどの感想が返ってこなかったらどうでしょうか。

大人が子どもの行動を見て無反応な場合は二つに別れます。一つは本当に興味がない、何が面白いのかわからない、リアクションのしようがない時です。できれば褒めてあげたいものですが、どう褒めるか叱るか悩みどころです。

こんな時には素直に子どもに聞いてみましょう。それは何か、何が凄いのか、今までとどう違うのか、尋ねていくうちに子どもは説明することを覚えていきます。そして少なくとも自分に興味を持ってくれていると実感することができます。

もう一つは大人がわざと無反応を装う場合です。子どもは一度褒められると、次には同じことをしたり、同じ物を持って来たりします。何度も同じように褒められようとしますが、これでは成長が止まったままです。そこで何回かやり取りした後に、わざと反応を薄くしてみるのです。

これで子どもは悩みます。より大人の興味を引く方法を自分で考えるのです。言い換えれば無反応なことは子どもに柔らかくNOと言っていることになります。これで子どもが頭をひねって考え出してきたアイデアが正しい方向だったら褒めて、間違った進化だったら理由と共にダメだと言えばいいのです。

次の行動の準備

子どもは自分が何か行動をして、そして返ってきた対応を見て次にやることを選択します。褒められたのなら、もっと褒められるように、もっとうまくできるように努力するでしょう。叱られたのなら、泣いたり怒ったりのあと反省し、恐る恐る次の行動を選びます。

失敗した部分をうまくやりなおそうとする場合と、全く直前までと関係のない行動をとるパターンがありますが、後者の場合は叱られて嫌になったことよりも、うまくやり直す自信がない場合が多くあります。

無反応だった場合は、子どもは他の場合よりも頭を使わなければなりません。今までやっていたことを、より強く、大きく、速く、的確にやったほうが喜ばれるのか、全く違うことをやった方がいいのかを選ばなければならないからです。

これは子どもの性格によって変わってきますが、試行錯誤して同じ路線を改良しようとする行為は論理的な積み重ね型の思考が強化されます。全く違うことをやろうとする場合は、感情型の飛躍的な思考が鍛えられるので、一概にどちらがいいとは言いきれません。子どもの選択を見守りましょう。

一連のやり取りの記憶

子どもは大人が驚くほどに、子どもと大人との間のやり取りを鮮明に憶えています。というよりも最初は全体の流れを理解していないので、大人の発言や自分の行動の一場面を断続的に記憶しているわけです。しかし何度も同じやり取りが起こると、子どもはそのやり取りごと記憶するようになります。つまり自分がブランコを漕いで褒められた、もっと勢いをつけたらもっと褒められた、全力で漕いだら叱られた、という風に全ての流れを記憶してしまうので、間の時点できちんと理由を説明していないと、何でそうなったか理屈付けて記憶をたどれないのです。

この場合は大人が言いたかったことは単に、ブランコを上手に漕ぐのは良いことだが勢いを付けすぎると危ないよ、ということなのですが、子どもの記憶で単純にブランコがダメなことに入ったりするのを避けるためにきちんとした理由の説明が必要なのです。

このやり取りの記憶は、それが終わっても子どもの意識の中で反芻されます。そして次の機会に、そのやり取りの記憶を取り出して応用するのです。これは毎日の習慣などで、もっとも発揮されることです。歯磨きはご飯を食べた後、歯磨きを持って、歯磨き粉を付けて、一連の動作があって、最後にうがいをして口を拭きますが、この時は最初に大人から色々と注意をされながら、その手順を憶えます。

そうしていくうちに日々のやり取りの記憶から、今度は大人にこう言われるだろうと思いながら、先回りしてそれが出来るようになるわけです。内言語化されていなければ、子どもは独り言で自分で自分を注意しながら一連の行動をやるかもしれません。

この例でいえば、これで一つ一つの手順と行動をまとめ上げた「歯磨き」という手続きを学習したことになります。まだ色々な不測の事態には対応できませんが、歯磨きをしなさいと言われて、自分で一連の動作を順序良く繰り返すことができるようになるわけです。

このようにして物の名前を憶えたり、言葉の意味を憶えるような単純な記憶ではなく、一連の流れと手順を包括した手続き型の記憶が完成するわけです。これは例えば保育園までの道順を憶えたり、お店での買い物の手順を憶えたりと、今後の人生でよく使われる重要な概念なのです。

「流れ」を学習する

一連の手順を学習することができるようになると、急に子どもが成長したように見えます。今までバラバラに覚えていた幾つもの事柄が、短期間のうちに互いに関連付けられて複合的に再記憶されるのです。これまでは記憶したことは、即役に立つとは限りませんでした。しかし、手続きの中で記憶された事柄は再利用しやすく応用も効くのです。

こうして短い単位の時間の手続きが記憶されれば、それを複数に組み合わせて、より広い概念に拡張しようという動きが子どもの中で起こります。

今まではなんとなく結びついていた朝の行動も、朝は起きて顔を洗ってご飯を食べて、歯を磨いて、着替えて、保育園に行く、という一連の手順で表されます。一日の概念も同じように朝起きて夜寝るまでを、一週間の概念も休みの日を中心に覚えることができるようになります。経験が深まればクリスマスやお正月、夏の海、スイカ等の記憶を結び付けて一年間の流れを把握することも出来るようになるのです。

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