7対応→反応→対応の連鎖-6通じる言葉、通じない言葉

常に理解度を考える

子どもに接する時に一番注意したい事は言葉遣いです。もちろん不必要に強い口調や甘やかす口調もダメですが、一番いけない事はわからない言葉を使うことです。これはなかなか難しい問題で、だからといって大人の側まで幼児言葉で話すことは成長の発達自体を止めてしまう結果になります。

そこで子どもの側がどこまでの単語を知っているのか、どこまでの文法を理解しているのかを常に意識しておく必要があります。子どもの成長は速く、2~4歳にかけて千もの単語を憶える事もあります。昨日まではわからなかった言葉を今日は自分から使ってみる事もあるでしょう。全てを周囲の大人が理解しておくことは無理です。そこで言葉を交わしながら、言葉がわかっているのか、通じているのか気を使いながら話をすることにしましょう。

通じない注意は偶然の不運

会話がうまく成立しているように見えても、実は話がかみ合っていない事はよく起こります。こちらが怒っている時に、その内容が子どもにうまく伝わらなかったとしたらどうでしょうか。自分が怒られているようだ、というのは相手の口調からわかります。では何の理由で怒られているのでしょう。

大人であれば「何で怒っているの?」と聞き返せるでしょうが、子どもは大人に怒られているという事実で手一杯で聞き返せるはずもなく、そして冷静に振り返って何が悪かったのか推理することもできません。怒られたきっかけと理由を子どもが理解できないままでいれば、子どもは今回はたまたま怒られたのだ、と思いはじめます。これは大変困ったことです。次回以降も怒られた時に偶然だと思ってしまうからです。

通じない褒め言葉は偶然の幸運

褒められた時にも同じ事が起こります。子どもにわかりやすい言葉、内容で褒めてあげることが重要です。何故褒められたのかが理解できない場合は、これもまた偶然だと思うことになります。これでは怒られないように気を付けて、褒められるようなことをする、という教育の大原則が壊れてしまうのです。

その場で、子どもの理解度をはかりつつ理解できるように丁寧に、子どもが知っている言葉の範囲で説明をしなければなりません。わかっていなくても大人から大声で「わかった?」と聞かれると子どもは頷くしかありません。子どもに理解できる言葉、話し方がどのレベルのものなのか、会話ごとに気を付けて、デリケートに探っていきましょう。

ルール自体の理解は可能か?

世の中のルールは社会的、全世界共通のルールから、小さな共同体、友達グループ内、その場限りのルールまで、広く多岐に渡って階層構造を持ってつくられています。問題なのは子どもがその場で守らなければならないルールを理解できているのか、ということです。

大人の側でその場のルールを考えてみましょう。買い物にいった時や家に一人でいる時など、その場その場で子どもがやってはいけないことを、試しに紙に書きだしてみましょう。触ってはいけない物から始まって走るな、騒ぐな、座るな、手を離すな、といくらでも書き続ける事ができるでしょう。もちろんそのルールの中でも優先順位があるわけですが、子どもに説明する時には優先順位が高い方から、子どもに理解しやすい、簡単な言葉でルールを説明して守らせるようにしましょう。

複雑すぎるルールはいじわる

それでも場によってはルールが複雑すぎて子どもがついていけない場面もあります。例えば公園で大きい子どもが野球をやっていたからと仲間に入れてもらおうとしても無理な相談です。そこにはかなり緻密で憶えることの多い厳密な公式ルールがあるからです。もっと小さい所ですごろくなどをやっても、子どもは何故好きな目がでるまでサイコロをふってはいけないのか、好きな場所に駒をおいてはいけないのか急には理解できないでしょう。

じゃんけんですら理解するのはかなり高度な約束事です。そして子どもにとっては自分がギリギリで理解できる範囲のルールの中で遊ぶ事が最高の喜びなのです。さじ加減が難しいのですが、無理に遊びの中でルールを押しつける事は不要です。本人が遊びたいのであれば、まずはそのルールを話して理解できるかどうかを試してみる事です。遊び以外の生活でも、子どもにとって理解できない複雑なルールを押し付ける事は、できないことをやれといわれるだけで、子どもにとっては全く納得がいきません。きちんと子どもの発達成長に合わせてルールを決めて守ってもらいましょう。

通じる言葉で約束する

その場のルールは時に大人と子ども、子どもと子どもの約束として明文化されます。それはきちんと双方に納得のいく約束でしょうか。子どもは内容を理解しているでしょうか。約束を守ることの意味、守らなかった時の不利益は本当に子どもに伝わっているでしょうか。よく子どもの反応をみてわかるまで言い聞かせましょう。

よく大人が一方的にルールを押し付けて「約束よ!」という場面がありますが、これではまるで命令です。もちろん命令が必要な場合もあります。強制力を発揮させなければならないこともあります。ですが、せっかく約束という言葉を使うのであれば、子どもが内容を理解して自分で約束を破るか守るかを真剣に考えられる内容にしましょう。それが約束という言葉の持つ重さを子ども自身が理解するきっかけにもなっていきます。

通じる言葉で対応する

最後に繰り返しますが、子どもに通じる言葉で話すということはどういうことでしょうか。子どもの知っている単語だけで喋れば、子どもは新しい言葉を理解しないのではないか。子どもに通じる言葉だけで話していれば、新しい環境で知らない言葉に出会った時に戸惑ってしまうのではないか。それぞれ心配なケースがあると思います。

ここで重要な事は、大事な話はきちんと子どもに理解できる言葉で話す、というルールだけです。子どもが「あか、わんわん」と言ってきたのを「赤い犬がいるのね」と言い換えてあげたり、「白いシャラシャラした袋を持ってきて」とヒント付の新しい言葉を使ってみたりと、いくらでも言葉の幅を広げる事はできます。この言い換えやヒントによって、子どもが間違って想像していた言葉を正すこともあるでしょうし、子どもの知らない言葉への推測力を鍛える事にも繋がっていくのです。

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