1基本の中の基本-4記憶


憶えているということ

記憶について簡単に説明をしますが、一度体験したことを脳内に刻み込むこと、それを保持しておく事、それを思いだせること、次に同じ体験をした時に過去の思い出と照らし合わせて同一の物かどうか判別できることの四つをもって記憶すると言います。憶えておける期間の長さで長期記憶、短期記憶に別れますが、これは長い期間憶えておく必要のあることは脳の奥深くに大切に保存されて、取り出す時も大切に取り出します。逆に少しの間憶えておいて後は忘れてしまってもいいことは、すぐに取り出しやすい所に置いておいて、いらなくなったら次々に上書きされます。ちょうどコンピューターのハードディスクとメモリーの関係のようなものなのです。そのどちらにも利点があり、人間はこれを上手く使い分けています。

人間の脳にはニューロンという神経線維が無数にあります。そしてそれがそれぞれに枝を伸ばしシナプスという接点でお互いに信号を出しているのです。これは非常にデジタルな部品で相手に接続するかしないか(信号を送るか送らないか)の機能しかありません。そして複数の枝から信号を受け取ったニューロンは次のニューロンへ多数決のような仕組みで信号を送ります。二本の枝のどちらかから信号がくれば次に信号を送るニューロン。二本の枝の両方から信号がこないと信号を送らないニューロン。信号がくれば沈黙し、信号が来なければ信号を送るニューロン等、実際には複数の無数に張り巡らされた神経線維が人間の思考と記憶を電気信号によって考えたり記憶したりしているわけです。

単純な記憶

もっとも単純な記憶は一対一の対応の記憶です。人の名前や色の名前、動物や花の名前等の名前の記憶は一対一の記憶の代表的なものです。他にも数字を丸暗記したり、長い文章を暗記したりと深い意味を問わずに暗記することが単純な記憶方法というわけです。

子どもの発達時期には、この単純な記憶がもっとも活発に発達します。ほとんど意味もわからないような文章を子どもが丸暗記していてビックリすることがありますが、これは子どもには丸暗記という方法の方が記憶しやすいことを指しています。10歳過ぎくらいまでは、この記憶法方が最もよく使われます。

順序の記憶

少しすると順序だてて物事を憶える能力がでてきます。これは言葉が出てからしばらくすると使えるようになる能力です。小さい子どもでも駅名を順番に言える子どもがいますが、これは物事の前後の区別ができるようになって初めて可能になります。今までは頭の中に点々と浮かんでいた記憶が、一本の線として記憶され始めるのです。

この頃になると一連の手続きをまとめて記憶することも可能になります。朝に顔を洗うのに水道を出して石鹸を泡立て顔に付けてゴシゴシ洗って水で流して水道を止める、の様な手続き型の記憶が順序だてて記憶できるようになるのです。逆にこの記憶形式が発達してないうちに複雑な手順を教えても、順序がばらばらに記憶されて水道を出したり閉めたり、洗う前に流してしまったりと、大変都合の悪いことになります。子どもの発達状態を良く見て教えることを決めましょう。

一覧の記憶

記憶の網はもっと広がります。それまで順序や前後関係で憶えていた物を、複数関連付けて憶えていられるようになるのです。一本の線でつながっていた記憶が、紙に書いた数多くの升目のように記憶できるようになるわけです。また、二次元的から三次元的、更に多元的に物事を憶えておくことができるようになります。頭の中で地図を広げてみるように記憶のやり方も変わってきます。

この頃になると単純な名前や一対一の記憶の仕方よりも、きちんと意味をわかって関連付けて憶える方が得意になってきます。猫は動物の仲間、タマは猫の仲間というような内包関係も理解できます。走ってタイヤがあるのが車、走って足があるのが馬というような継承関係も理解できるようになります。記憶ということと理解するということは本来は違うものですが、理解してから憶える方が楽だということに子どもは気づき始めるのです。

連想の記憶

更に記憶している事柄について、継承や内包していないものでも関連付けて憶えておくことがあります。これはどちらかというと記憶を取り出す時に起こることですが、父親の靴を見て車を思い出したり、口紅を見てデパートを思い出したりするものです。この時に子どもの頭の中では「靴-父親-ドライブに連れていってくれる-車」や「口紅-母親の外出-いつもとは違った場所-デパート」というように連想が働いているのですが、その連想は一瞬で終わるため、子どもは自分がなぜ靴を見て車を思い出したのかがわかりません。

このように心の中で不規則につながっているグループをコンプレックス(心的複合体)と呼ぶこともあります。コンプレックスというと悪いイメージばかりがありますが本来は悪いだけの言葉ではありません。ハチマキを見ると運動会を思い出して自分の運動音痴を連想し暗い気分になってしまう、等のようにハチマキを見ただけで暗い気分になってしまうような連想もあるわけです。

思い出せない

さて、様々な物を様々な憶え方で記憶していますが、これを思い出せないとはどういうことでしょうか。人間は基本的には忘れてしまうことのできない生物です。一度体験したことは様々な形で脳の中に保管されています。それを思い出せないのは、取り出し方の問題だということです。

記憶の中からそれを探し出すために検索する連想のキーが間違っていたり、順序だてて憶えている物を無理に途中から思い出そうとしていたりと探し方が悪ければ目的の物は見つかりません。記憶喪失になった時には基本的に昔のことから思い出していくという例が多数あります。何を憶えているのかは、その憶え方と共に脳の中に眠っているのです。なのでできるだけ最初に戻って思い出すことが記憶に対しては有効なのです。

「思い出してごらん」と子どもに問いかけるときには、なるべく順序だてて、時間をたっぷりかけて自分で思い出すことができるように練習しましょう。

忘れてしまう

意味のわからないものも憶える必要がある場合もあります。理屈を付けて憶えるやり方に慣れてしまうと逆に丸暗記する能力は衰えていきます。単純な数字の羅列の電話番号などは、うまい語呂合わせが浮かばなければ憶えることが難しいのです。その瞬間は憶えていても、次の日になると憶えたことの20%しか思い出すことができません。しかしその割合は変わらず一週間たっても憶えているのは20%程です。

ここで人間は予習復習という手段を使います。憶えておかなければならないことは忘れそうになったら、再び憶えなおすか、もう一度思い出してみるのです。これで長期的に憶えている確率は大幅に上がります。短期記憶から長期記憶へ上手く移しかえることが重要なのです。

逆に人間はうまく忘れられない生物です。忘れてしまいたい嫌な思い出や怖い体験なども、忘れようとするたびに心によみがえってきます。また問題なのは一度間違って憶えてしまった物を訂正するのが難しいことです。一度間違った物を憶えてしまうと、憶えなおした正解と、間違った物を訂正したことの記憶と合計3つの記憶ができてしまうのです。

これは大変に不都合で3つを全部思い出さないと正解がわからないのです。「どっちかだったのは憶えている」「間違いの方だけ思い出す」「思い出したが正解かどうか自信がない」ということになるのです。物を憶える時は最初に、間違うことなく正確に憶えることが重要なのです。

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