2何が出来るのかを見つめる-3手先の発達

手に触れるもの

生まれてすぐに乳を飲むのに乳房を探しますが、その時に既に手のひらで場所を探したり、お腹が満たされれば手で突き離すのがわかります。胎内にいる間に手を開いたり閉じたりはしているようですが、これは出産という急な外界の変化にもかかわらず、手の機能はある程度の段階まで達しているために、なんらかの感覚は既にあると考えられます。

また、手に触れる物への感覚もあります。硬いもの、柔らかいものの区別はつきます。どちらかというと柔らかく暖かい物を初期は好みます。しかし、その嗜好も他の様々な物を触っていくことで、触ること自体に興味が移り絶対的ではなくなっていきます。この時点で物に乱暴に触る、叩く子どもは注意が必要です。本人はその感覚の変化を楽しんでいるのですが、思わぬ怪我を招くことになりかねません。できるだけ自由にさせてあげたいところですが、危険と判断したら中止してください。

手のひらから指へ

手のひらの開閉はできるわけですから、指にも感覚はあるわけですが、最初の内は全ての指を開くか閉じるか、という機能しかありません。物を挟みこむことはできますが、それは掴むというよりも手のひらの中に閉じ込めるというような動作になります。この時点では握りこむ強さの調節も上手くいきません。

手のひらで様々な物を触ったり握ったりしていくうちに、各指が少しずつ個別に動くようになります。親指が他の四指とは違う働きを持っていることに気づくと、その一番近くにある人差し指との二つが個別に動き出します。子どもによっては親指と他の指で挟む、という段階を踏むこともあります。なんにせよ、これまでは手のひらが感覚器官として主役だったのが、指から指先へセンサーが分岐していくわけです。

暖かさ、冷たさ、硬さ、柔らかさ

暖かさや冷たさは手だけではなく全身の皮膚にセンサーがあり、不快な温度になると、自分でそれを判別できます。しかし全体ではなく、今触っているものが冷たいのか熱いのかは最初の内は痛覚の刺激とごちゃ混ぜになっています。もちろん皮膚上にある痛点と温度を感じるセンサーは別物ですが、最初はただの刺激としてしか認識しないのです。

火傷などした時でも、熱いからというより、しばらくたって痛くなってから泣く子どもが多く、火傷治療が遅れる場合もあります。これも時間がたつと感覚が分化していき、熱さ、寒さ、痛みは別々の感覚として認識されていきます。また、この段階で左右の手を別々に考えられていれば、右手に暖かいもの、左手に冷たい物を当てても動じなくなります。(これには個体差が影響します)

硬い、柔らかいなどは触った感じでわかるものですが、完全に指の感覚が定着してからは詳細に指先でつまんだりすることで判別できるようになります。これはフィードバックといって自分の指先の感覚を感じながら、手や指先にこめる力を調節する難しい作業です。特に壊れやすいものや、滑りやすい物をうまくつかめるようになるまでには、しばらく練習が必要です。

物をつかむ

指がある程度器用に使えるようになると、握りこむのではなく、物を掴めるようになります。握りこんでいる内は、それを手のひらの中に感じているだけですが、掴めるようになると、掴んだ物を見たり移動させたりできるようになるのです。例えば棒を握るか放すかしかできなかったものが、掴めるようになると、棒をよく見ようと目に近づけて(時には目に当たるまで)みたり、振り回したり投げたりすることが可能になります。大きな事故がおきやすい時期です。注意しましょう。

また、まだ他人の事が判別できなかったり、他の友人を認識できない段階では、他の人めがけて投げつけたり振り回したりします。発達段階をよく見て危険が無いようにしましょう。

物を動かす

物を掴んで遊ぶというのが乳児の限界ですが、まだまだ子どもは成長していきます。掴んだ物を移動させることは面白いことですが、これにも飽きがやってきます。次の段階は掴んだ物を利用して他の行為をすることです。

この二次的な道具の使用は、棒で何かを叩く、スプーンを握って食事をする、クレヨンを握って絵を描くというように徐々に段階を踏みながら、手指の発達と同時に器用にこなせるようになっていきます。何かを使って他の操作に使う、つまり道具を使うことは子どもに大きな満足感と興味を与えます。なので多少の失敗をしながら経験を積み、発達をとげていくことを周囲は上手くサポートする必要があります。

刃物を子どもに使わせるのが良いのか悪いのかという議論が昔からありますが、少し手を切って痛い思いをして、絆創膏をはって治るという程度で上手く次の行動へ経験を生かせるのか、大怪我をして取り返しのつかない事故になるのかはわかりません。火傷なども、熱い物を触ってヒリヒリする程度なら経験として生かせるでしょうが、子どもの中にはストーブに突進して大火傷を負うようなことをする子もいます。

周囲の大人は上手く見守り、大事故にならないように「上手に失敗させる」ことも時には大切です。

他者との伝達の基礎

手先は物を扱う道具になるだけでなく、他者への伝達手段としても大事です。つまり指差しやジェスチャーなどがそうです。これは言葉と同じで周りの人たちのジェスチャーを見て学ぶ機会が多いので、子どもを相手にする場合はわかりやすく、その意味の言葉を言いながら大きなジェスチャーで対応するのも一つの手です。

大きさ小ささ、高さ、速さなどを子どもはジェスチャーで伝えられるようになります。指差し等は手全体で指し示していたものが、指先だけで意味が通じるようになるまでに少しかかります。時々は子どもに「どれくらいの大きさだった?」「どっちにあった?」等ジェスチャーを必要とする場面を作ってあげてください。

必要が器用さを育てる

他の発達もそうですが、手先の発達は必要に応じた機能を備えるということが重要です。つまり必要とされなければ、それ以上器用になる理由がないのです。子どもの各段階において必要な技能にはどのようなものがあるでしょうか?物を掴んで移動させたいから指の力が発達する。物を持って遊びたいから腕の力がついていく。壊さないように大事にしたいから微妙な力の入れ具合が発達する。全ては必要があるから発達するのです。

できれば子どもができることで、家の手伝いなどに協力してもらう事をお奨めします。これは能力の開発が目的で、逆に見守るために周囲の人間の苦労は増えるかもしれません。(本来の「手伝い」の意味をなさないかもしれません)しかし、様々な課題に挑戦することで子どもはどんどん手先が器用になっていきます。

大事なことは子どもが「ギリギリできること」を任せるということです。一例をあげると洗濯物ならば、たたむという行為はきれい汚いの概念や半分に折るという高度な技術を必要としますが、洗濯ばさみにとめていくだけなら難しい概念は必要なく洗濯ばさみの開け閉めができれば可能です。子どもが興味を持つ、能力の上限を見極めて課題をだしてみましょう。もちろん上手にできなかったとしても参加するだけで褒めてあげることは重要です。

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